主な肩関節疾患のご紹介
肩関節の問題で病院を受診する患者さんの65%は中高年で、原因不明の肩関節痛を起こし肩が動きにくい、いわゆる五十肩です。五十肩は色々な肩の病気の総称です。その半分は単純な関節の炎症で放っておいても治るものです。しかし、皆さんの言う五十肩の中には、激烈な疼痛を引き起こす「石灰沈着性腱板炎」やリハビリが必要ないわゆる「凍結肩」や手術が必要な「腱板断裂」などが含まれます。これらの疾患は、正確な診断と積極的な治療が必要です。
「石灰沈着性腱板炎」は、肩に石灰がたまってしまう特殊な炎症です。症状が出始めて1~2日のうちにとても我慢できないような激烈な肩の痛みを起こします。炎症を抑える薬の注射で劇的に良くなります。
「凍結肩」は、肩関節が固くなって十分に動かない状態です。この状態は、時間を待っても良くなりません。リハビリが必要です。
肩関節疾患の手術のうち、「肩関節腱板断裂」と「反復性肩関節脱臼」が75%を占めます。この2つの疾患について、少し詳しく述べてみましょう。
肩関節腱板断裂
1.腱板って何?
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肩関節には肩甲骨と上腕骨の間に、棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋と言う小さな筋肉があり、肩を動かす時に働きます。この4つの筋肉の上腕骨側の腱になった部分を、「肩関節腱板」と言います。腱板断裂とは、この腱板が切れている状態です。皆さんが五十肩と言う状態の30%ほどが腱板断裂です。
2.腱板断裂は放っておいてはいけないの?
関節には関節液という特殊な水が少量たまっており、関節の潤滑作用と共に関節軟骨に栄養を供給しています。関節液が漏れ出す状態の腱板断裂を長年放置すると、関節液が不足して関節軟骨の栄養障害を起こし、関節が壊れてしまうことがあります。手術を勧める最大の理由は、関節の破壊を防ぐことです。
3.どんな手術をするの?
内視鏡で手術します。一般的に行われている内視鏡での腱板修復手術では、アンカーと呼ばれる異物を、いくつも骨内に埋め込んで腱板を修復します。この手術方法は手技が簡単ではありますが、価格の高い異物アンカーを使用し、再断裂が起こった場合に救済する方法が難しくなります。
当院では2005年より、この様な一般的な内視鏡での腱板修復手術とは全く異なる手術方法を考案して施行しております。この手術はアメリカの一流専門誌「Clinical Orthopaedics and Related Research」や「International Journal of Orthopaedics」に掲載され、国際的に高い評価を得ております。国内外より肩関節専門家が留学や手術見学に訪れており、2016年にはインドに招かれて手術を公開してきました。この手術方法では再断裂率が極端に低く、当院での2000人以上の手術では3.1%でした(アンカー法では7~27%と報告されています)。高額なアンカーを使用しないので手術費用も安価です。
手術方法を紙面で詳細に説明するのは難しいので、下記QRコードを読み込んで、ユーチューブ動画をご覧いただくようご案内いたします。
ただし、動画は肩関節専門医向けに手術手技を説明する内容ですので専門用語など判りにくい部分もあるかもしれませんが、ご容赦いただければ幸いです。
掲載論文:
◘ Advantages of Arthroscopic Transosseous Suture Repair of the Rotator Cuff without the Use of Anchors.
◘ Reply to the Letter to the Editor: Advantages of Arthroscopic Transosseous Suture Repair of the Rotator Cuff without the Use of Anchors.
◘ Arthroscopic Transosseous Suture Without Implant for Rotator Cuff Tears: Absorbable Mattress Sutures Versus Non-Absorbable Sutures.
反復性肩関節脱臼
1.なぜ肩関節は脱臼を繰り返しやすいの?
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肩関節は、上腕骨骨頭と肩甲骨関節窩の組み合わせです。受け皿である肩甲骨関節窩は上腕骨骨頭の1/3の面積しかありませんので、肩関節はもともと不安定な関節です。安定性を求めるために、受け皿の周囲を関節唇と言う軟骨が取り巻いています。通常の脱臼では、上腕骨は前下方(矢印の方向)に抜けますので、その通り道の関節唇と前方の靭帯が壊れてしまいます。これが、2回目の脱臼が起こりやすくなる原因です。初めての脱臼後、2回目の脱臼が起こる確率は23%ですが、2回目の脱臼を起こした場合、3回目の脱臼が起こる確率は79%(2回目の脱臼が1年以内に起こると92%)となり、回を重ねるごとに再脱臼の確率は高くなります。
2.なぜ手術をしなければならないの?
肩関節脱臼は、筋力を鍛えても防げません。外傷が加わった時に、筋肉が防護体制をとる前に脱臼は起こってしまいます。脱臼時には肩関節に無理な力が加わりますので、脱臼が起こる度に関節の中は少しずつ壊れます。私たち肩関節専門医が2回目の脱臼を起こした時点で手術を勧める最大の理由は、関節の破壊を防ぐことです。
3.どんな手術をするの?
私たちが施行している手術は「ブリストウ変法」と言って、肩甲骨の上の方に出っ張っている鳥口突起と言う肩甲骨の一部を筋肉をつけたまま約1.6cm切り取って、肩甲骨関節窩の前下方に移行しネジで留めます。こうすることで、脱臼方向の受け皿を広げます。移行した鳥口突起が関節窩と一体化するには、3ヶ月かかります。移行した鳥口突起には肘を曲げる筋肉が付いていますので、術後5週間経過するまでは重いものを持って肘を曲げることは避けなければなりません。手術翌日からリハビリを開始し、平均6週間のリハビリが必要です。入院期間は、リハビリが通院出来れば最短で1週間です。運動復帰は、術後3ヶ月経過した時点でトレーニングを開始し、術後5ヶ月でスポーツに完全復帰出来ます。
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4.再発はしないの?
反復性肩関節脱臼の手術は色々な方法があり、ベテランの肩関節専門医が手術をしても約6%以上に脱臼が再発します。今まで、これは仕方のないことだと思われていました。最近盛んに行われるようになった関節鏡を用いた手術では再発率はもっと高くなり、2003~2005年の日本肩関節学会での報告では、経験豊かな専門医が施行しても再発率は7.5%です。術後再発が起こるのは、当然のことなのでしょうか?そんなことはありません。誰もが再発しない夢の手術方法を求めています。その答えの一つが、私たちの行っているブリストウ変法と言う手術方法です。当院のブリストウ変法は、一般のブリストウ変法とは全く異なる手術方法です。当院でこの手術をした患者さんは現在まで350人ですが、再脱臼を起こした患者さんは一人もいません。術後に投球動作とバレーボールのアタック動作を繰り返すと、上腕骨骨頭に軽度の変形を起こす可能性があるので、利き腕の場合、これらの運動は避けるようにお願いしています。また、スキーやスノーボードは肩関節脱臼を起こす主な原因であるという理由で、「しない方が良いでしょう」とお答えしています。しかし、多くの方がウィンタースポーツに復帰していますが、再脱臼は起こっていません。その他の運動制限はありません。全日本クラスの柔道にも問題なく復帰しており、ラグビーやアメリカンフットボールなどの激しいスポーツにも完全復帰出来ます。当院の手術法は、正常以上の強い肩を作り出すことが出来、再発をゼロに抑えています。
5.関節鏡の手術はどうなの?
ブリストウ変法 | 関節鏡手術 | |
再発 | なし | 7.5% |
皮膚切開 | 5cm | 1cm×4ヶ所 |
運動復帰 | 術後3ヶ月から | 術後3ヶ月から |
手術時間 | 40分 | 2~3時間 |
材料費(保険が使えます) | 5,470円 | 200,000~330,000円 |
術後固定期間 | 3週間 | 3週間 |
リハビリ期間 | 6~8週間 | 6~8週間 |
入院期間 | 1週間 | 4日~1週間 |
外旋制限 | 10°(関節の固さは意識出来ません) | なし |
私たちは、希望があれば関節鏡での手術も行います。術後の再発率が同じ位なら関節鏡での手術を選ぶ患者さんが多いと思いますが、再発率ゼロの手術方法があることを知ると、関節鏡での手術を選ぶ患者さんはまずいません。
医療法人社団青嶺会 松戸整形外科病院
顧問 / 創立者 黒田 重史